これまでのところ、周辺の海域では、船の航行に影響は出ていないとしています。
また日本郵船もドバイの駐在などを通じて情報収集を行っていて、現時点で、周辺の海域を航行する船に影響は出ていないということです。
2社によりますと去年6月に中東のホルムズ海峡付近で日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃を受けて以降、現場海域では、警戒の強化や航行の速度を上げるなどの対応を継続しているということです。
イラン・イラク進出の日本企業
外務省の海外在留邦人数調査統計によりますと、おととし10月の時点で30の日本企業がイランに進出しています。
JETRO=日本貿易振興機構によりますと、イランに進出しているのは、商社やエンジニアリング会社、それに金融機関が多くなっていて、石油やガスといったエネルギー関連のプラントの維持・管理などを行っています。
また、原油の輸入や自動車販売などは、アメリカのイランに対する経済制裁の影響で、現在は、現地でのビジネスは難しくなっているということです。
こうした中で中東情勢が緊迫化していることから、進出企業の中には現地の従業員を避難させることを検討するところも出ているということです。
一方、イラクについては、現在も、テロが相次いでいることなどから外務省が、イラク全土に「退避勧告」から「不要不急の渡航中止勧告」までの危険情報を出しています。
イラクの首都バグダッドや南部の都市バスラなどに現地スタッフが対応する日本の商社の事務所などがありますが、ジェトロは「イラクは治安が悪い上、現地にジェトロの拠点もないため、詳しい日本企業の状況はわからない」と話しています。
金融機関は…
金融機関では、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の大手3行が、イランの首都、テヘランに駐在員事務所を置いています。
いずれも現地の駐在員を避難させるといった対応は現時点ではとっていません。
このうち、テヘランに駐在員事務所を置く三菱UFJ銀行では、イランとイラクへの出張を見合わせるようすべての従業員に通知しました。
また、みずほ銀行では、急ぎではない場合は、イランを含む中東諸国への出張を控えるようすべての従業員に対して通知を出しています。
大手3行はテヘランの事務所とも連絡をとりながら現地の状況を確認するなど、情報収集に努めているということです。
石油元売り各社は…
アメリカとイランの対立による中東情勢の緊迫化を受けて、石油元売り各社は情報収集体制を強化しているほか、社員に中東地域への出張を控えるよう求めています。
石油元売り大手のJXTGホールディングス、出光興産、それにコスモエネルギーホールディングスの3社は、中東情勢の緊迫化を受け情報収集体制を強化するなどの対応を進めています。
このうち最大手のJXTGホールディングスは、中東地域への不要不急の出張を控えるよう社員に呼びかけているほか、UAE=アラブ首長国連邦のアブダビやドバイの事務所に対しては、有事の際の退避計画を確認することなど安全対策の徹底を求めています。
また出光興産は、イランやサウジアラビア、それにイスラエルなどへの出張の自粛を求めているほか、ドバイやカタールのドーハの現地事務所に対して安全を最優先して業務を行うよう注意喚起を行っているということです。
LPガス大手も懸念
イランがアメリカ軍の拠点を攻撃したことを受けて中東からエネルギーを輸入する企業の間では懸念が高まっています。
大阪 中央区に本社がある大手ガス会社の岩谷産業は、LPガス=液化石油ガスの販売で国内最大手で、LPガスの多くを中東から輸入しています。
LPガスは都市ガスが供給されていない地域にある住宅や飲食店、家庭用カセットこんろなど幅広い分野で使われています。
大阪 堺市にある岩谷産業の「堺LPG輸入ターミナル」は海外からのLPガスの受け入れと各地への出荷機能をもつ国内有数の規模の施設です。
このターミナルはイランからの輸入はないものの、中東地域からのLPガスを輸入しています。
会社では法律に基づいて輸入から3か月間、ガスを備蓄しているため仮に輸入が滞っても直ちに影響は出ないとしています。
ただ、LPガスの価格は原油価格に事実上連動しており、今後の中東情勢次第では原油価格につられてLPガスの価格が急激に上昇したり、中東からの輸入が滞ったりする懸念があり、会社では状況を注視しています。
岩谷産業の間島寛副社長は「当社はイランとの直接の取り引きはないものの、LPガスの6割から7割を中東から輸入している。緊張が高まることで中東からの輸入が滞る可能性がある。問題が長期化すれば、家庭用のプロパンガスの価格が上昇することにもなりかねない。現地とこまめに連絡をとって状況把握に努め、今後の状況を注意深く見ていきたい」と話していました。
双日は駐在社員に退避命令
アメリカとイランの対立が厳しさを増していることを受けて、大手商社の双日はイランに駐在する日本人社員に対して、8日、国外に退避するよう命じました。
双日によりますと、イランの首都テヘランに現地法人があり、日本人の駐在員1人が勤務していますが、8日、この社員の安全を確保するため、直ちにイランの国外に退避するよう命じたということです。
また、双日の社員全員に対し、イランへの出張は原則禁止したということです。
豊田通商 イラン駐在員の退避検討
名古屋に本社がある大手商社の「豊田通商」は、イランの首都テヘランに事務所を置いて複数の社員が駐在しているということです。
イランがイラクに駐留するアメリカ軍の拠点を狙って攻撃したことを受け豊田通商は8日、社員に対し、急ぎではない場合はイランへの出張を取りやめるよう求めました。
また、イランにいる日本人の駐在員を一時的に国外に退避させるかどうか検討しているということです。
漁業への影響も懸念
中東情勢が緊迫化していることについて、国内でも有数の漁港がある宮城県気仙沼市では、原油価格の高騰による漁業への影響を懸念する声があがっています。
遠洋マグロ漁を営む漁業会社の臼井壯太朗社長は、1991年の湾岸戦争の際に原油価格が高騰したことを思い出し、当時のようにならないか懸念しています。
臼井さんは「湾岸戦争の時は1隻あたり1億円以上、経費が増えたので、同じことになると怖いです。以前より、魚の価格も下がっているので、このまま燃料価格が上がると、われわれは生きていけなくなる」と話していました。
さらに、臼井さんは市内のおよそ7割の事業者が水産業に関わっている気仙沼市全体にも影響が広がらないか懸念しています。
臼井さんは「漁業がだめになると港町にとっては大打撃です。東日本大震災後、われわれは次の世代に水産業を残そうと頑張ってきたので、戦争にならないことを祈るばかりです」と話していました。
サイゼリヤ社長「安全乱されれば大変なことに」
外食チェーン大手のサイゼリヤは、ワインやハムなど食材の仕入れの2割ほどをイタリアからの輸入が占め、食材は、中東のスエズ運河と紅海を経由して日本に送られています。
アメリカとイランの対立が厳しさを増していることについて、サイゼリヤの堀埜一成社長は、8日の決算会見で「われわれのビジネスは紅海の安全の上で成り立っているので、安全が乱されれば大変なことになる」と述べました。
そのうえで「湾岸戦争のときはアフリカの喜望峰を回るルートに変更したが、そうすると、到着までの時間が長くなり欠品のリスクを抱える。コストが増える分は会社で吸収するが、在庫の状況によっては出せなくなるメニューもあるかもしれない」として、代わりの輸送ルートなどの検討を急ぐ考えを示しました。