アフガニスタン東部のナンガルハル州ジャララバードで今月4日、福岡市のNGO、「ペシャワール会」の現地代表の医師、中村哲さん(73)が車で移動中に、何者かに銃撃され死亡しました。
事件を受けて、中村さんの妻の尚子さんと長女の秋子さんは、6日、首都カブールに到着したあと、中村さんの遺体が安置されているカブール市内の軍の病院を訪れ、遺体と対面しました。
2人は、しばらくの間ひつぎの窓から中村さんの顔を見つめ、時折、涙を浮かべていました。
長女の秋子さんは、「アフガニスタンの人たちに厚意を寄せてもらって、父も喜んでいると思います。お世話になりました」と話していました。
このあと、アフガニスタンのガニ大統領が大統領府で遺族と面会し、哀悼の意を伝えました。
ペシャワール会によりますと、遺族は、8日にも亡くなった中村さんと共に帰国する予定だということです。
一方、現地の警察は、NHKの取材に対し、武装グループが外国人を標的にすることで、国内外に自分たちの存在を誇示しようとした可能性がないか調べていることを明らかにしました。
中村さんは、農業用水路の建設などこれまでの活動が高く評価され、ことし10月にアフガニスタン政府から外国人として初めて名誉国民の表彰を受けるなど現地で広く知られていただけに、警察は、こうした事情と銃撃が関係がないか調べています。
カブールでは市民が政府の対応批判
中村さんが銃撃され死亡した事件をうけて、首都カブールで6日、大勢の市民が通りに出て、暴力に抗議の声をあげるとともに事件を防ぐことができなかった政府の対応を厳しく批判しました。
参加者たちは、中村医師の顔写真が印刷された横断幕や、「あなたはアフガニスタン国民の心のなかで永遠に生き続けます」などと書かれたプラカードを掲げながら、通りを行進していきました。
参加した女性は、「すべての国民がこのような残虐な事件に抗議の声をあげるべきです」と話していました。
また、別の女性は「中村医師の死は、アフガニスタン政府にとって大いに恥ずべきことです。政府は、私たち国民のために尽くしてくれた中村医師を守るために何もしなかった」と話し、政府の対応を厳しく批判しました。
専門家「自分たちの存在と能力誇示」
アフガニスタン東部のナンガルハル州で4日、医師の中村哲さんが銃撃され死亡した事件について、現地の情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は「今回の犯行は、政治的なメッセージを持っている。人目につく場所で外国人を標的にして殺害することで、国内外に自分たちの存在と能力を誇示しようとしたものだ」と話しています。
また事件直後に、反政府武装勢力タリバンが、関与を否定していますが、犯人像については、「まだ断定はできないが、この地域で影響力を持っているハッカーニ・グループの可能性がある」と話し、タリバンの中でも強硬派とされるグループが、犯行に関わったと指摘し、タリバン内部も一枚岩ではないとの見方を示しました。
田中教授は「彼らのような武装勢力は、アフガニスタン政府が外国人によって支えられていると考えているため、外国人を標的にして追い出せば、政府を倒せると考えている」と分析しました。
そのうえで「犯行に関わった勢力は、かなりの確度で、中村医師が車に乗っているとわかっていたと思う。中村医師は、アフガニスタン政府から表彰も受けていて、格好のターゲットになる。いったんターゲットになってしまうと、未然にすべての攻撃を防ぐことは、難しい」と話していました。