引退を決断した時期については、「父が生前に『引き際が大事だ。勝って終わることが大事だ』と話していたので頑張ろうという思いもあった。すごく迷ってここまで来たが最終的に先月の天皇杯の試合を見て決めた」と説明しました。
また、レスリングについては、「人生の一つ。レスリングが無かったらここまで私も来られなかったし、たくさんの方々に出会うこともなかった。すべてレスリングのおかげだと思っている」と感謝のことばを述べました。
今後、指導者の道を歩むのかどうかについては、「日本代表の選手もコーチたちも頑張っているので精神的な支えになれればいいなと思っている。ナショナルチームのコーチは続けていき、迷惑をかけない程度に協力できたらなと思う」と話していました。
一方、去年10月に復帰し、5回目のオリンピック出場を目指している伊調馨選手についても言及し、「自分はやりきったという思いが強かったので、引退するという決意は変わらなかった。ただ、伊調選手はすばらしい選手で、これまで一緒に頑張ってきたので、東京大会を目指すと聞いて、すごいなと率直に思った」と話しました。
36歳の吉田選手は、オリンピックでは2004年のアテネ大会から2012年のロンドン大会まで3連覇を果たし、2016年のリオデジャネイロ大会では、4大会連続のメダルとなる銀メダルを獲得しました。
また、世界選手権では、前人未到の13連覇を果たし、「絶対女王」、「霊長類最強」といった異名を持つほど圧倒的な強さを見せ、平成24年(2012年)には、国民栄誉賞を受賞しました。
吉田選手は、リオデジャネイロ大会以降、公式戦に出場せず、選手兼任のコーチとして日本代表チームなどで指導を行っていて、8日、自身のツイッターで現役引退を表明していました。
吉田選手 涙は見せず
会見には、およそ200人の報道陣が集まりました。黒のワンピースに白のジャケット姿で会見に臨んだ吉田選手は、「笑っていることが好き」と話すとおり、各社からの質問に対し時折笑顔を見せながら、はきはきとよどみなく答えていました。
吉田選手は、報道陣とファンに向けてあいさつしたあと、最後に母親の幸代さんから花束を受け取り、会見を終えるまで涙を見せることはありませんでした。
母・幸代さん「皆様に感謝」
吉田沙保里選手の母の幸代さんは、「これまで日本の皆様に本当にお世話になり感謝しています。亡くなった主人も『いいところで辞めろ』とずっと言っていて、娘もそれを信じてやってきました。主人も、もういいよとOKを出してくれると思います」と話しました。
また、吉田選手がその強さから「霊長類最強」と呼ばれてきたことについて、「親としては、霊長類最強って、一応女性なのになと思っていましたが、カレリン選手に並ぶくらい強いということで、あとで思うと感謝です」と話し、報道陣の笑いを誘っていました。
伊調選手「明るさや優しさに元気づけられた」
吉田沙保里選手の引退についてオリンピック4連覇を達成し、ともにレスリング女子を引っ張ってきた伊調馨選手は、「日本代表として世界で戦うようになってからずっとお世話になりっぱなしで、沙保里さんの明るさや優しさに元気づけられてきました。突然のことで驚きましたが第2の人生も楽しんで下さい。本当にありがとうございました」とコメントを発表しました。
地元の人「こんな世界的な選手になるとは」
津市にある吉田沙保里選手の実家の近くに住む田端学さんは、吉田選手の家族と40年来のつきあいがあり、引退会見を自宅のテレビで見届けました。
会見を見た田端さんは「いつもの明るいさおちゃんとは違って緊張した様子だった。小さい頃から指導を受けてきたお父さんをオリンピックで優勝して肩車できたことがうれしかったと話したのが、いちばん印象的でした」と振り返りました。
そのうえで、「夏場には実家の練習場から声が聞こえてきていたので、頑張っているなと当時は思っていたが、こんな世界的な選手になるとは思っていませんでした。今はただ『お疲れさま』ということばしか出てきません」と話していました。
大学の後輩たち「後に続けるように」
吉田沙保里選手の引退を受けて、至学館大学の後輩の選手たちがコメントを出しました。
2年生で、去年、吉田選手と同じ女子53キロ級で世界選手権を制した奥野春菜選手は「沙保里さんは私がレスリングを始めた時からの憧れで、ずっと追いかけてきた尊敬する方です。これからも沙保里さんのあとに続いていけるよう頑張りたいと思います」とコメントしています。
また、世界選手権で2回、金メダルを獲得している3年生の向田真優選手は「追われる立場としてずっと勝ち続けてきた沙保里さんは、本当にすごいと思っていました。私も沙保里さんのようにオリンピックで金メダルを取れるように頑張ります」とコメントしています。
大学の寮母「お疲れ様でした」
至学館大学の寮母として吉田沙保里選手を支えた前田寿美枝さんは、「いつかこの時が来るとわかっていましたが、いざこの瞬間を迎えると寂しさで言葉が見当たりません。どれだけ感謝してもしきれないほど夢や力、優しさをもらいました。本当に長い間お疲れ様でした。これからも後輩たちをよろしくお願いします」とコメントしました。
指導してきた奥野さん「出会えてよかった」
吉田沙保里選手を子どもの頃から指導してきた奥野竜司さんは現在、伊勢工業高校のレスリング部で顧問を務めていて引退会見の様子を見て「東京オリンピックで勝って引退するという選択肢もあり葛藤したと思うが、会見では『若い選手にバトンタッチする』と言っていたので、彼女の中では完全にやりきったんだと思います」と振り返っていました。
そのうえで、「出会った時にはこんな偉大な選手になるとは思わなかったが、吉田選手に指導者として出会えてよかった。これからはレスリング以外にも好きなことをやって自由な時間を過ごして、少し落ち着いたらジュニア世代にその技術を伝えていってもらいたい」と話していました。