また飲食店では、規模の大きな店や新たに営業を始める店は喫煙室以外、禁煙とする一方、客席面積が100平方メートル以下の、既存の規模の小さい個人経営などの店は、店先などに表示すれば喫煙が可能となっています。
法案は先週、参議院厚生労働委員会で可決されたことを受けて、18日午前、参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党と、国民民主党などの賛成多数で可決され、成立しました。
法律が成立したことを受けて、学校や病院、行政機関などでは来年夏ごろから原則禁煙に、飲食店では再来年4月1日から規制が始まります。
専門家「一歩前進」
国立がん研究センターの若尾文彦がん対策情報センター長は、受動喫煙の危険性について「受動喫煙をした人はたばこを吸わない人に比べて肺がんのリスクが1.3倍に増える」と指摘しています。
今回の法律が成立したことについては、「まだまだ完全なものではないが、受動喫煙の対策が遅れていた日本で、望まないたばこの煙を避けられるよう環境が整備されていくことになるので、一歩前進だと思う」と一定の評価をしています。
そのうえで、今後も対策を進めていくべきだとして、「近年、オリンピック・パラリンピックの開催都市はしっかりと受動喫煙防止の対策を取って、それをきっかけに国全体で対策を広げてきた。日本の取り組みを海外から来た人に知ってもらうという気持ちで臨んでほしい」と指摘しています。
肺がん患者「法規制は大きな前進」
日本肺がん患者連絡会の理事長、長谷川一男さん(47)は8年前、突然、肺がんと診断されました。激しいせきが1週間ほど続いたため、病院で検査を受けたところ、右側の肺に6センチほどまで広がった進行した状態のがんが見つかったのです。
当時、長谷川さんがノートに記したメモには「生きる!!やれるところまでやる」と病気に立ち向かう決意が書かれています。
たばこを吸ったことはありませんでしたが、父親や職場の人たちなど周囲にいた多くの人がたばこを吸っていました。
受動喫煙は肺がんなどのリスクを高め、国内では年間およそ1万5000人が死亡しているという推計もあります。
長谷川さんは闘病を続けながら、受動喫煙の防止に向けた活動を進めています。
今回の法案を審議していた衆議院厚生労働委員会にも参考人として出席しましたが、意見を述べていたところ自民党の国会議員からヤジを飛ばされました。
長谷川さんは法案が成立したことについて一定の評価はしていますが、規制の対象が限られるなど決して十分ではないとして、法律が施行されたあとも成果を検証して見直していくことが必要だと訴えています。
長谷川さんは「マナーの問題として捉えられてきた受動喫煙が法律で規制されることで、多くの人が重要な問題だと知ったことは大きな前進です。受動喫煙によって命をなくすことがないよう、今後も改善をしてほしい」と話しています。
どこが禁煙になるの?
改正健康増進法では、施設の種類に応じて、たばこを吸えない場所などが決められています。
学校や病院、行政機関などは、建物の中は完全に禁煙となります。敷地内の屋外では、喫煙所の設置が認められています。
また、オフィスなどでは、いずれも「喫煙室」以外でたばこを吸うことはできません。
一方、飲食店では、店の規模などが基準になります。規模の大きな店や、新たに営業を始める店は禁煙となりますが、店の中に設けられる「喫煙室」では吸えることになります。
「喫煙室」は、紙巻きと加熱式の両方のたばこが吸えるタイプと、加熱式たばこしか吸えないタイプの2種類で、設置については店側の判断になります。
加熱式たばこの喫煙室では、飲食は可能ですが、紙巻きたばこの喫煙室では、飲食はできません。
客席面積が100平方メートル以下の規模が小さい、個人経営などの店は、喫煙か禁煙かを経営者が判断し、店先などに表示することになります。
店の規模にかかわらず、たばこを吸えるところに立ち入れるのは、20歳以上の人だけです。客や従業員であっても、20歳未満の人は入れません。
また、罰則も設けられます。喫煙ができなくなる施設から、灰皿を撤去しないなど対策を怠った管理者には50万円以下の過料が、一方で、禁煙の場所で、繰り返したばこを吸うなど、悪質な場合には、30万円以下の過料が科せられます。
学校や病院、行政機関などは来年夏ごろから原則禁煙に、飲食店は再来年、2020年4月1日から規制が始まります。
より厳しい条例設ける動きも
国の法律では一定規模以下の飲食店が規制の対象外とされ、厚生労働省は飲食店の55%が対象外になると試算しています。
これについて、国の規制は不十分だという批判が上がっていて、一部の自治体では、より厳しい条例を設ける動きも出ています。
先月成立した東京都の受動喫煙防止条例では、従業員を雇っている飲食店は規模にかかわらず屋内を原則禁煙とし、例外となる店は16%にとどまっています。
千葉市も東京都の条例と同様の規制を盛り込んだ条例案の骨子をまとめています。
また、国に先んじて規制に乗り出している自治体もあります。神奈川県は8年前に受動喫煙の防止条例を施行していて、客席の面積が100平方メートルを超える店は禁煙か分煙を選ぶ義務が課されています。
兵庫県でも5年前に同様の規制などを盛り込んだ受動喫煙の防止条例を施行しています。
さらに奈良県生駒市の条例では多くの人が行き交う市の中心部について、先月から喫煙禁止区域に指定し、決められた喫煙所以外では終日屋外を禁煙とする新たなルールを設けました。
東京都条例は
東京都では先月、この法律よりも厳しい条例が成立しました。最も大きな違いは、飲食店への規制です。
改正健康増進法では、客席面積が100平方メートル以下の規模の小さい個人経営などの店は、喫煙か禁煙かを、経営者が決めることになっています。厚生労働省によりますと、こうした飲食店は全体の55%程度とみられるということです。
一方、東京都の条例は、店の規模にかかわらず、従業員を雇っている店は「原則禁煙」となり、吸えるのは店の「喫煙室」の中だけです。都によりますと、都内の飲食店のおよそ84%が規制の対象になるとみられています。
また、幼稚園、保育所、小中学校と高校などでの対応も異なります。改正法では、敷地内でも屋外には、喫煙所の設置が認められていますが、東京都の条例では、敷地内はすべて禁煙となります。
東京都では、来年9月1日までに幼稚園や学校は完全に禁煙となり、飲食店では再来年、2020年4月1日から規制が始まります。
都条例で規制対象になる飲食店は
東京都内の飲食店の中には、法律ではなく都の条例によって規制の対象となった店もあります。
その1つ、千代田区神田小川町のオフィス街にある居酒屋は、現在、客の半分ほどがたばこを吸う人たちです。周辺では禁煙の店が増えていて、たばこが吸えるこの店を選んで来る客も多いということです。
この店は、客席の面積が100平方メートル以下のため、法律の規制では店先に表示をすれば喫煙できることになっていましたが、従業員を雇っているため都の条例で規制の対象になりました。
店の常連客で喫煙者の男性は「仕事が終わって一息つくのに飲食店での喫煙は欠かせないものです。今後、規制が厳しくなると店に来る機会も減ると思います」と話しています。
居酒屋「大衆酒蔵 縁」の店長の平田豊さんは、「規制の強化は客が減るおそれがあるので、店の売り上げを考えると厳しいと感じていますが、従うしかないと思います」と話しています。
奈良 生駒市は次々と独自の対策
こうした中、奈良県生駒市は、国の法律に先駆けて次々と独自の対策を打ち出しています。
去年秋、いわゆる「歩きたばこ」を市内全域で禁止する条例を施行しました。
さらに先月からは、人通りが多い市役所と市の玄関口・近鉄生駒駅の周辺を「喫煙禁止区域」に指定し、対策を強化しました。
指定された区域では「歩きたばこ」はもちろん、指定された喫煙所以外では終日、屋外での喫煙が禁止されました。
市の職員が取締りにあたっていて、違反者には勧告や命令を出し、それでも従わない場合には、2万円の過料を命じます。
取締りから1か月で口頭で注意したケースが15件あったということです。
生駒市は、職員に対しても独自のルールを設けています。勤務時間内は昼休みを除いて禁煙とし、昼休みにたばこを吸った人は45分間、エレベーターに乗ることを禁止しています。
喫煙後しばらくは息に有害物質が含まれるとされていて、エレベーターの中での受動喫煙を防ぐ狙いです。
法律の成立について生駒市環境保全課の奥田和久補佐は「1つの自治体だけでやっても限りがある。国や他の自治体とも連携して取り組んでいきたい」と話しています。
きっかけは2020年の東京五輪
今回の法改正の大きなきっかけとなったのは、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催です。
IOC=国際オリンピック委員会は、開催国に「たばこのないオリンピック」を求めていて、近年の開催国は受動喫煙の対策を開催に合わせて強化しています。
厚生労働省がおととし行った調査によりますと、2010年以降の開催国5か国のうちカナダ、イギリス、ロシア、ブラジルの4か国では、飲食店を完全禁煙にする罰則付きの規制を設けています。
韓国では、喫煙専用のブースの設置を認めたうえで、飲食店を屋内禁煙としています。
WHOの評価は下から2番目
WHO=世界保健機関は、公共の場所での受動喫煙を防ぐ各国の取り組みを調査し、4段階に分けて評価しています。
最も高い評価を受けているのは、飲食店やオフィスなどすべての公共の場所を屋内全面禁煙とする法律などがある国で、去年の調査では、イギリスやカナダ、ロシア、ブラジルなど55か国に上ります。
日本は、これまで公共の場所で受動喫煙を防ぐための法律はなく、最低の評価となっていました。
今回、日本でも新たに法律が成立しましたが、禁煙となった公共の場所は限定的とされ、WHOの評価は1つ上がるだけで、4段階で下から2番目となります。
より厳しい東京都の条例についてもWHOの評価は同じで、下から2番目にとどまります。