災害別で見ると全体の80%を占める67人が川の氾濫などによる「水害」で死亡し、このうち半数以上にあたる45人が、自宅などの「屋内」で死亡していたことがわかりました。
さらにこのうちの少なくとも7人は、氾濫した川の水で住宅ごと流されて死亡していました。
この7人は、熊本県▽球磨村の2世帯5人と▽人吉市の1世帯2人で、いずれの住宅も球磨川沿いの「家屋倒壊等氾濫想定区域」と呼ばれる場所にありました。
この区域は、川が氾濫した場合に水の勢いが強く、建物がそのまま流されて倒壊するリスクがあるとして、国や都道府県が定めることになっています。
球磨川周辺ではこの区域の中にどれだけの住宅があったのか。
NHKは、国内最大手の地図会社・ゼンリンのおよそ9万棟の建物データを使って独自に分析しました。
その結果、球磨川沿いの10市町村では、「家屋倒壊等氾濫想定区域」の中に合わせて5057棟の住宅があることがわかりました。
市町村別に見ると、▽人吉市が2776棟で最も多く▽八代市が1348棟、▽球磨村が556棟、▽相良村が132棟などと多くの住宅が流失のリスクを抱えていることが浮き彫りになりました。
「家屋倒壊等氾濫想定区域」は、荒川や多摩川といった人口の多い首都圏の川を含む全国各地の川の周辺にもあります。
牛山教授は、「住宅が流されやすい場所では、2階以上に避難する『垂直避難』では家ごと流される可能性がある。
日頃からリスクを認識して、安全な場所に早めに移動する『立ち退き避難』を心がけてほしい」と指摘しています。
「家屋倒壊等氾濫想定区域」とは
「家屋倒壊等氾濫想定区域」は、堤防の決壊などであふれた水により、住宅が倒壊したり、流されたりする危険性のある場所を示します。
平成27年9月の「関東・東北豪雨」の際に、堤防が決壊してあふれた水で住宅が倒壊したり、流されたりしたことをきっかけに国や都道府県が定めることになりました。
国や都道府県が浸水想定を行う各地の川で設定されていて、例えば、都内を流れる「荒川」でも、埼玉県熊谷市から東京・江東区、江戸川区にかけての川沿いの地域に設定されています。
国土交通省や都道府県が公表している「浸水想定図」で確認できるほか、自治体によっては、ハザードマップに掲載されていることもあります。
この範囲内に住宅がある方は、浸水が始まる前に▽安全な高台などに避難するか、▽近くの鉄筋コンクリートのマンションや公共施設の高い階に避難するなどの対応をとる必要があります。
一方で、防災行動に詳しい静岡大学の牛山素行教授は、すべての川で「家屋倒壊等氾濫想定区域」の設定が終わっている訳ではないとしています。
牛山教授は、「ハザードマップに『家屋倒壊等氾濫想定区域』の記述が無くても安全と思わず、川のすぐ近くに家があれば、氾濫で流される可能性があると考えて行動してほしい」と指摘しています。
水に流され倒壊リスクある住宅 球磨川沿い 5057棟
NHKは▽国土交通省が公表している球磨川の「家屋倒壊等氾濫想定区域」と▽地図会社・ゼンリンの「建物データ」を重ねあわせ、川が氾濫した場合に、水に流されて倒壊するリスクのある住宅を抽出しました。
その結果、球磨川沿いの10の市町村では、合わせて5057棟で住宅が流されるリスクがあることがわかりました。
市町村別の棟数です。
▽人吉市が2776棟、▽八代市が1348棟、▽球磨村が556棟、▽相良村が132棟、▽芦北町が89棟、▽多良木町が67棟、▽錦町が42棟、▽あさぎり町が35棟、▽湯前町が7棟、▽水上村が5棟でした。
特に被害が大きかった▽球磨村は村全体の住宅の34.7%、▽人吉市は市全体の住宅の26.2%がこの区域に入っています。