その結果、東北や関東などの合わせて127の池が被害を受け、このうち宮城県の6か所、福島県の5か所、栃木県の1か所の合わせて12のため池が決壊していたことが分かりました。
なかでも宮城県白石市では3つの池が決壊して中の水が流れ出し、下流にある20棟ほどの住宅が浸水する被害が出たということです。
農業用のため池をめぐっては、去年の西日本豪雨で決壊が相次いだことから農林水産省が「防災重点ため池」の対象を広げていて、今回決壊した12か所のうち11か所はことし5月に「防災重点ため池」に選定されましたが、施設の補強はこれからだったということです。
「津波のような勢い」山から水が迫る
台風19号の大雨で山あいにある3つの「防災重点ため池」が決壊した宮城県白石市では、下流にあるおよそ20棟の住宅が浸水しました。
決壊した3つのため池は同じ水系にあり、このうち、最も上流にある白石市大鷹沢三沢の「逆川上ため池」は、水をせき止める堤が数十メートルにわたって激しく崩れました。
台風から2週間余りたった今は水がほとんど残っておらず、池の底にある土砂がむき出しになっていて、大量の水が下流に流れ出たとみられます。
白石市によりますと、ため池が決壊した詳しい時間は分かっていませんが、ため池から400メートルほど離れたところに暮らす住民によりますと、台風19号が接近した今月12日午後8時ごろ、地響きのような大きな音を聞き、直後には土臭いにおいがしたということです。
そして30分後の午後8時半ごろには、決壊したため池から1.5キロほど下流にある地区で、複数の住民が「津波のようなものすごい勢いで山から水が迫ってきた」と証言しました。
水が一気に家の中に
この地区に住む遠藤友三郎さん(73)は、午後6時ごろ、自宅の前を流れる川の様子をスマートフォンで撮影していました。
映像には、すでに川から水があふれ、茶色い濁流が道路を勢いよく流れる様子が映っていますが、遠藤さんはふだんの大雨のときとさほど変わらないと感じたといいます。
ところが、午後8時半ごろ、遠藤さんは、玄関の隙間から、水が入ってきていることに気付き、様子を見ようと扉を開けたところ、水が胸の高さまで押し寄せ、一気に家の中に流れ込んできました。遠藤さんは、上流のため池が決壊したと直感したということです。
このため、いつも用意しているという貴重品を入れた巾着袋を持って、妻とともにすぐに2階に避難しました。2人にけがはありませんでしたが、住宅の1階は完全に水没し、畳や家具はすべて使えなくなりました。家の壁には、1メートルほどの高さのところに茶色い土砂の跡が今もはっきり残っています。
遠藤さんは、「家族の写真や思い出の品が一気に流されてしまった。命は助かったが、これから生活を元どおりにするのは大変だと思う」と胸の内を明かしました。
また、遠藤さんは市が作成したため池が決壊したことを想定したハザードマップを事前に確認していたということで、「ため池が決壊したら危険だと思っていたが、まさかこんなことになるとは思わなかった。自然災害に絶対の安全はないと感じた」と話していました。
水位計や監視カメラなし 状況把握は困難
白石市は、各地区の町内会を通じ、すべての世帯にハザードマップを配布するなどしてため池の決壊に備えるよう呼びかけてきました。
一方、今回決壊したため池には、ほかの多くの池と同様に水位計や監視カメラが設置されておらず、水位が上がるといった決壊につながる情報を市が把握することは難しかったとしています。
白石市は今後、ため池の安全対策について、大雨でたまった余分な水を流す機能の拡充や、堤の強化などのハード対策などを検討したいとしています。
「防災重点ため池」5年前の5.6倍に
去年の西日本豪雨では農業用のため池の決壊が相次ぎ、広島県福山市では、ため池の近くの住宅にいた3歳の女の子が流され犠牲になりました。
西日本豪雨では合わせて32か所のため池が決壊しましたが、このうち自治体が優先的に対策を講じる「防災重点ため池」に選定されていた池が3か所にとどまっていたことから、農林水産省は「防災重点ため池」の基準を見直して対象を広げることで、より多くのため池で防災対策を進めています。
その結果、5年前の2014年3月時点で「防災重点ため池」に選定されていたのは全国でおよそ1万1000か所でしたが、ことし5月にはおよそ6万3000か所と5.6倍に膨れ上がりました。
農林水産省「ソフト面 ハード面ともに対策進めたい」
一方で、自治体の財政的な制約もあり、堤の補強や排水施設の改修などハード面の対策を一気に進めるのは難しいのが実情です。また、農家の高齢化や担い手不足から、日頃の維持や管理に手が回らないため池もあります。
このため農林水産省は、利用が減ったため池の統廃合や、代わりの水源の確保を進めるとともに、避難などソフト面の対策も必要だとしています。
具体的には、すべての「防災重点ため池」について、決壊した際の浸水想定エリアを示した地図を、来年度末までに作成することなどを地元の自治体に求め、住民の迅速な避難につなげたいとしています。
農林水産省は、「自治体と連携してソフト面ハード面ともに対策を進めていきたい」と話しています。
15時間先までの危険性 予測するシステムも
農業用ため池の決壊の兆候を事前にキャッチし、住民の避難に生かそうという取り組みも進められています。
茨城県つくば市にある国の研究機関、農研機構が去年開発したばかりの「ため池防災支援システム」は、ため池が決壊するかどうか15時間先までの危険性を予測することができます。
このシステムには、ため池の堤の高さや周辺の地形などのデータが蓄積されていて、大雨の際には気象庁が発表する雨量などのデータをもとにため池に流れ込む水の量を試算し、決壊の危険性を予測します。
開発した農研機構は、自治体が避難指示を出す場合などに役立ててほしいとしています。
農研機構「ため池のリスク 意識を」
農研機構の梶原義範部長は「ため池の防災上の整備が一気に進むとは考えにくく、ハード面での対策以外に住民への周知などソフト面の対策に力を入れることも重要だ」と話しています。
そのうえで「大雨の時のため池のリスクを把握するために自治体が常日頃から管理状況を監視するほか、ため池が危険な状況になった時の連絡・周知の体制の構築や、決壊した場合の浸水想定を作成して住民の避難に生かすなどの対策が重要だ。さらに大雨の時にはため池に近づかないなどため池のリスクを意識することも今後の被害をなくすことにつながっていくと思う」と指摘しています。